書評 大崎事件と私 ~アヤ子と祐美の40年
あっという間に読める本だった。展開にリズムとスピード感があり、なにより面白かったからだ。
再審事件を扱うノンフィクションというと重たい内容を想像してしまう。実際、再審についても詳細な言及がある。結果的に現在手に入る最良の再審教科書に仕上がっている。しかし本書の醍醐味は違うところにある。
誤解を恐れずにいえば本書は極上のノンフィクション・エンターテインメントである。鴨志田祐美というひとりの情熱的な弁護士ができあがっていく物語である。その物語が楽しいのである。大崎事件の展開は壮絶を極めるが、どんな困難な状況下でも人生を楽しむ気持ちを忘れることなく前向きに走り続ける著者の姿勢に悲壮感はない。彼女の姿に共感し彼女を応援する人たちの輪が広がっていくのを追体験できる。この体験の楽しさこそが本書の真骨頂である。法律に携わらない方が読んでもこの楽しさを共有できるよう、平易な表現で書かれている。したがって本書を開けば誰もが鴨志田祐美になることができる。鴨志田祐美として事件と向き合い、権力の理不尽に抗い、仲間と語らい、酒を酌み交わしながら再審事件を戦うことができるのである。
法曹関係者にとっては、法曹の仕事の魅力をあらためて確認させてくれるものであるだろう。著者は、法曹がどうあるべきかについて何度も問いかける。再審事件を戦う著者の問いかけであるから重みが違う。
本書にはたくさんの裏話や駆け引きの様子が出てくる。場合によっては「こんなことまで書いちゃっていいのだろうか」と読み手が心配になるほどの内容が書かれている。でもだからこそ面白いし勉強になる。
ぜひ多くの方に手に取っていただきたいと思った。